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2008年4月17日 (木)

プロパガンダ!

地球温暖化問題がヒートアップしてますが……
工学博士 伊藤公紀氏
工学博士 伊藤公紀氏
横浜国立大学大学院工学研究院教授。1950年福岡県生まれ。環境計測科学などの分野で日本を代表する研究者。著書に『地球温暖化 埋まってきたジグゾーパズル』(日本評論社)、共著に『暴走する「地球温暖化」論』(文藝春秋)などがある。

そうですね。ことに日本の国民にとって、地球温暖化は今では「メディアリテラシー」の問題になっているとも言える状況です。現状の報道や論調には、CO2(二酸化炭素)排出だけを糾弾する傾向が強すぎるきらいがありますね。

地球温暖化は、地球の病気のような状態です。たとえば、自分が病気になったらひとりの医者の意見に頼るだけじゃなく、セカンドオピニオンを求めようとするはずです。ところが、地球温暖化問題の現状は、ある意味で大袈裟な〈診断〉が一人歩きを始めていて、日本国民の多くが疑うことなく信じている。とても危険なことだと思います。

地球温暖化問題に対する関心の高まりは、アル・ゴア氏が書いた『不都合な真実』の本や映画のヒットが契機のひとつとなりました。あの本の内容は、消費大国であるアメリカへの警告としては意義があるでしょう。でも、科学的な「真実」を冷静に見極めていくと問題が多いのです。

たとえば、38ページにゴアの先生であるレヴェル教授が「地球の大気に含まれる二酸化炭素量の測定を最初に提案した人」である、つまり二酸化炭素量測定のパイオニアであると紹介されています。でも、最初に大気中の二酸化炭素量測定を始めたのは、チャールズ・キーリングという科学者です。ゴアの書き方には〈誤解〉があるのです。

『不都合な真実』の問題点とは?

不都合な真実『不都合な真実』の問題点は、科学的な根拠がちょっと古くて、事実を指摘する手法が少々粗っぽいことです。イギリスでは中学校の教材としてこの映画が使われる時に、教師は事実として疑わしい部分を生徒に説明しなければならないとする判決も出ています。いくつか、具体的に紹介しておきましょう。

キリマンジェロの氷河は
解けているのではなく蒸発している?


45ページに、アフリカのキリマンジェロ山頂付近の雪や氷河が消えていることが紹介されています。かつては、地球温暖化による気温上昇が原因と推測されていました。でも、最近の詳しい現地調査によれば、湿度の低下と太陽熱によって、昇華(固体が蒸発すること)したということがわかっています。湿度低下を招いたのは周囲の植物の減少などが原因と考えられています。本の中でも消え残って柱のように尖った氷河の残骸の写真が紹介されていますが、まさにあの写真は氷河が解けたのではなく、蒸発した証拠ともいえます。解けて水が流れたのであれば、あんな形に消え残ることはないですからね。


異常気象や洪水の「経済損失」は
温暖化だけが原因なのか?


102ページには、洪水などによる経済損失額が急増していることを示すグラフが掲載されています。地球温暖化と気象には密接な関連があるでしょう。でも、経済損失額の大きさは、必ずしも異常気象だけが原因とは言い切れません。むしろ、海岸沿いに立派なリゾート地が開発されるといった街の構造や建造物の配置など、社会的要因が大きいと考えるべきではないでしょうか。

ここでは保険業界が抱く異常気象によるリスクへの危惧が語られていますし、データ自体が間違いだとは言いません。でも、読む側、情報を受け取る側が、ここで紹介されていることを『真実』だと思いこみ、政治的スローガンに巻き込まれるのは賢明ではないはずです。

さらに『不都合な真実』を読み解いてみる

永久凍土が解けているのは
建築物の暖房の影響に過ぎない?


永久凍土さらに132ページには、「広大な範囲の永久凍土が解け始めている」と警告を発しながら、崩壊した建造物の写真が紹介されています。でも、こうした建物が崩壊しているのは、建物自体の暖房が原因だということが現地調査でわかっています。断熱がお粗末な欠陥建築が倒壊しているのです。


ツバルの高波の写真は
のどかな日常風景なのに?


また186ページには、白く弾ける高波が家屋に迫る写真が掲載されています。大きな見出しで「海抜の低い島国に住む人々は、すでに家から避難しなくてはならなくなっている」と書かれている。でも、写真をよく眺めてみると、波が迫る家のテラスでは、裸の幼児をそばに立たせて女性が洗濯かなにかをしている日常生活の風景です。おまけに海の中では小学生くらいの男の子が遊んでいます。波が弾ける迫力満点の写真なので、海水面の上昇に対する危機感を煽られるのですが、冷静に写真を眺めてみると「作為」を感じてしまいます。ツバルの冠水の原因を温暖化だと断定し、住人がそこに家を建てて暮らしている日常の写真で危機感を煽るのは、一方的なプロパガンダともいえるでしょう。


テムズ川の防潮水門が閉まるのは
海水面の上昇とは別の理由?


続く189ページには、ロンドンを流れるテムズ川の防潮水門が閉まった回数の急増を示すグラフが掲載されています。海水面の上昇による高波がその原因と紹介されているのですが、ロンドン市の担当部署のホームーページでも、水門の閉鎖回数が増えているのは、上流で大雨が降ったときに閉じるようになったり、市民からの要請など、まったく別の理由であることが明記されています。

森林破壊の〈原因の原因〉を考えてみる
森林破壊『不都合な真実』の問題点を具体的に取り上げたのは、この本が地球温暖化に対する論調を象徴しているといえるからです。地球環境と人間の社会生活との関係を観察し、配慮していく努力は大切です。でも、偏った情報だけで判断するのは大きな間違いの元になります。

たとえば、226ページにブラジルで熱帯雨林を焼いて開墾する農業労働者の写真が紹介されています。森林を破壊して木を燃やすことが、二酸化炭素排出の大きな要因だと指摘しているのです。また、ゴア氏は同書の中でも代替燃料としてバイオ燃料を支持しています。

実は、ここにも大きな矛盾が隠されているのです。バイオ燃料の原料は農作物。今、バイオ燃料の増大によって、ブラジルやインドネシアの熱帯雨林が焼かれて耕作地に変貌しています。その結果、ブラジル産の大豆を原料にしたバイオ燃料のほうが、化石燃料よりも環境への影響が大きい(グラフ参照)という試算もあります。開墾や耕作によって大量のCO2が排出されるからです。アメリカ産のトウモロコシからつくられるエタノールも、環境への影響はとても大きい。下のグラフは代替燃料の環境への影響などを評価したものです。横軸で70%以下、縦軸で100%以下であれば、代替燃料として意味があるとされています。
燃料の温室効果ガス排出と環境影響の評価

このまま二酸化炭素を出し続けるのは、地球の健康にとって好ましくないという点はまったく真実に違いありません。でも、今の世論をリードしている本に、重要な点で地球の実態や真実に合わない点があるのです。ことわざで「悪魔は細部に宿る」あるいは「神は細部に宿る」とも言います。細かな点をおろそかにすると、人類全体が重大な過ちを犯すことになりかねません。

じゃあ、いったいどうすれば?
地球温暖化繰り返しになりますが、今後、社会が進む方向を決めるとき、ひとつの指標しかもたないのは危険だということです。地球温暖化問題では二酸化炭素が完全な悪役になっていますが、人間の活動が排出する物質で、地球環境に影響をおよぼすのは二酸化炭素だけではありません。中国やバングラデッシュで質の悪い燃料を大量に燃やして発生するエアロゾル(煤)は、深刻な大気汚染を引き起こすばかりか、大規模な気候変化の原因になっているらしいということがわかっています。北極振動という北半球の冬にできる北極圏の大気の渦の活動が、世界の海水温の変化に大きく影響していることや、太陽活動の変化が温暖化に影響していることもわかってきています。

ただし「では北極振動はなぜ起こるのか」といった原因まではまだわかりません。二酸化炭素の排出が今後どの程度の地球温暖化を引き起こすかという推察も、シミュレーションをするモデルによってさまざまな意見があるのが現状です。病気の原因もわからないのに、いきなり大手術をしてしまうのは、方法として無理があるのです。ヒステリックに二酸化炭素を悪者にすることで「じゃあ、やっぱり原子力発電を推進しよう」などということになれば、地球環境はさらに大きな傷を負うことになるかも知れません。

私自身、二酸化炭素排出による地球温暖化に対しては「懐疑派」でも「反対派」でもありません。冷静に真実を見極めるために情報を集めて探求する「現実派」だと思っています。

大きな目標を目指すとき、ただひとつの道に固執するのは危険です。もっと広い視野で「進むべき方向」を捉えて、柔軟に対応していくことが大切なのです。社会を変革する作業は、縦に積み上げた積み木を移動させるのに似ています。いきなり大きく動かそうとすれば、積み木は崩れてしまうから、一番下の積み木を慎重に動かしていきますよね。今後の日本が、こうした大きな視点と見識をもって、進むべき道を見出してくれることを祈っています。また、この『Charger』を読んでいる若い人たちが、しっかりと知識を広げ、正しい判断をしてくれることを願っています。

まさに皆さんにも現実派であってほしいものです、真実も見極めて、本当にやるべきことを知る事が大事だと思います。

月刊チャージャー4月号 より抜粋

【調査】まずは疑って係!
環境計測科学研究者に聞いてみました/本当にCO2だけが「不都合」な存在?地球温暖化問題は正確な「真実」なのか?

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